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2022年はドラマ「相棒」関連の記事が中心です。

読書感想文=太田愛【犯罪者】「殺人」は、やめようとしてもやめられないのか。

この記事では太田愛さんの小説【犯罪者】の読後の感想を、読書感想文の定型である「結→起→承→転→結」を意識して述べています。

結1=まとめの一部

「やむにやまれず」という言葉があります。辞書を引くと、その意味は「やめようとしてもやめることができないさま」と説明されています。

【犯罪者】を読み終えて、まず考えたのは、私たちが生きるこの世界で、人が「やむにやまれず」続けなければならないことと、じつはやめることができるかもしれないこと、その境い目についてです。

起=この小説と著者について

【犯罪者】は2017年に角川書店から刊行された太田愛さんによる小説です。2012年に発行された単行本【犯罪者 クリミナル】を加筆・修正して文庫本になりました。

太田愛さんはテレビドラマ「相棒」などを手がける脚本家です。

「相棒」で、太田さんは数少ない女性作家の視点から、登場人物のほとんどが男性である刑事ドラマの世界を描いています。

とくに印象的な作品は2012年1月1日に放送された「ピエロ」です。

クリスマスの夜に、主人公の2人の刑事のうち片方は子供たちを襲う誘拐事件に巻き込まれ、もう片方は事件の謎を解いて解いて被害者を救出するために奮闘します。

犯人、被害者、そして刑事たち、それぞれの心理描写が繊細で、2時間を超えるストーリーがあっという間に過ぎていきます。

太田さんの小説が面白くないわけがないだろうと思って選択したのが、著者の小説デビュー作である【犯罪者】です。

承=物語のあらすじなど

物語は、とある駅前で5人が襲われる「通り魔事件」から描かれます。

主人公は建設作業員である18歳の繁藤修司。彼は5人の被害者のうちの、ただ1人の生存者です。

修司は搬送された病院から抜け出そうします。その際に、謎の男に「逃げろ、できるだけ遠くへ逃げろ」と言われます。「あと10日。10日、生き延びれば助かる」と忠告して、男は姿を消しました。

修司はアパートに帰りますが、そこで再び命を狙われて、通り魔事件を担当する相馬刑事に助けられます。

相馬の友人でフリーライターの鑓水を加えた3人は、通り魔事件の真相を調べ始めました。

文庫版の上巻が5ページから525ページまで。下巻は5ページから441ページまで。読む前の時点での唯一の心配は、最後まで飽きずに読めるかどうかでした。

しかし、読み始めてみると、1日300ページのペースで、物語の先を求めていました。

ラジオで野球中継を聴いているような感覚です。実況と解説と応援の音声だけでグラウンドで繰り広げられる試合を想像するように、文字だけを頼りにしながら、脳内でテレビドラマが展開していくのです。

それでいて、登場人物の動作やセリフだけが語られるのではなく、一人ひとりの胸の内がていねいに吐露されています。

転1=心に残ったこと

いちばん心に残ったのは、通り魔事件が起きる原因となった、タイタンフーズという企業による隠ぺい工作です。

政府が発表した少子化対策の流れに乗って、タイタンフーズは自社オリジナルの離乳食を発売します。

しかし、材料の一部に「パチルスf50」という起炎菌が混入したことから、生後7か月から9か月の乳児100人以上が「メルトフェイス症候群」を発症しました。

メルトフェイス症候群は、乳児の顔面半分の組織が壊死し、えぐり取られたように陥没してしまう疾患です。この疾患は小説上の架空のものです。

完治の希望がなく、これから学校や地域で奇異の目にさらされることになるであろう子供の未来を案じ、代わってやれないつらさや申し訳なさにさいなまれて、自分の子を連れて死んでしまおうと思った母親。

そして、自社の不祥事を隠ぺいしようとする企業。

専務取締役による「被害に遭った子供たちは大変気の毒だと思いますが、新しいシステムが作られる過程では常に犠牲がつきものなのです」というセリフは、フィクションとはいえ、こんな人が企業の上の方にいるのかもしれないと思うと、やるせなくなります。

離乳食事業の担当者である中迫武営業課長が、自分の身を賭して、何の見返りがなくても、被害者への贖罪をこめて真相を世間に知らせようと行動する正義感を、応援せずにはいられません。

転2=読んで考えたこと

この小説のタイトルは「犯罪者」です。

著者は雑誌「ダ・ヴィンチ」に掲載されたインタビューで、物語中の「もう1人の主人公」である「犯罪者」について「やむにやまれぬ衝動から、ひとつの犯罪へと動いていく人間として、彼を描きたかった」と語っています。

「相棒」で太田愛さんの作品を見ていると、犯罪者の、被害者を殺さなければならなかった理由・動機が繊細に描かれています。

一方で、この小説における犯罪者の殺人は「衝動」です。

「衝動」を辞書で調べると「目的を意識せず、ただ何らかの行動をしようとする心の動き」と説明されています。

「やむにやまれぬ」は「どうしようもなく」または「やめようとしてもやめることができないさま」です。

タイタンフーズからの依頼で、やめようとしてもやめることができないまま、衝動に駆られて何人もの命を殺めてしまう犯罪者。

刑事ドラマの犯人は、殺人という行為が決して許されないものであっても、殺さなければならなかった理由が明らかになると、つい犯罪者に共感してしまいます。

しかし、この小説に出てくる、衝動による殺人を繰り返す犯罪者については、理解しようもなく、後味の悪い嫌悪感を抱きます。

それでも、自分たちの周りの現実は理不尽だらけで、ひょっとしたら、街ですれ違うどこの誰だかわからない人や、あるいは身近な友達の中にも、道徳やマナーに反する行為への衝動に駆られている人がいるのかもしれません。

自分自身にだって、たまに社会の倫理から逸脱した行為に身をゆだねてしまいたいという衝動を察知する時があります。

大切なのは、自分の心に衝動を覚えた時に、超えてはいけない線の手前で引き返せるかどうかです。

例えば、学校でのいじめ。それが犯罪かどうかに関わらず、自分ではない誰かを傷つけてしまう行為を、自分が抑えられるかどうか。

悪い衝動に気づくことができるかどうか。

そこに、「こちら側」と「あちら側」の、超えてはならない線が存在しています。

結=まとめ

メルトフェイス症候群の疾患を背負う子どもとその親は、どうしようもない現実に何度も打ちのめされながら、生きていかなければなりません。

「通り魔事件」で殺害された4人の、残された家族は、どうしようもない喪失感を消化しきれないまま、生きていかなければなりません。

タイタスフーズの上層部による「やむにやまれぬ隠ぺい工作」や、犯罪者による「やむにやまれぬ衝動による殺人」は、善悪の判断基準を間違わなければ、行為に及ぶ前に抑止できるものです。

この物語のフィクションの出来事から、リアルの世界で、してはならないこと、するべきことは何かを考え直すことができました。

犯罪者 上 (角川文庫)

犯罪者 上 (角川文庫)

 
犯罪者 下 (角川文庫)

犯罪者 下 (角川文庫)

 

いま、超えてはならない線は私の心にしっかりと見えています。それを忘れないようにメモしました。機会があればこれから何度も読み返して「こちら側」の人間であり続けようと改めて決意していきます。