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【読書感想文】ミヒャエル・エンデの『モモ』もし時間どろぼうに襲われたら

この記事では、小学生の課題図書としても有名なミヒャエル・エンデ作の児童文学『モモ』を読書して、その感想文を記述しています。

モモ (岩波少年文庫(127))

モモ (岩波少年文庫(127))

 

モモvs時間どろぼう

ミヒャエル・エンデの『モモ』には、「時間どろぼうと ぬすまれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子のふしぎな物語」という長い副題がついています。

ある街の古びた円形劇場に、どこからともなくモモと名乗る女の子が現われます。モモは、じっと人の話に耳を傾けるだけで、人々に自分自身を取り戻させる不思議な力を持っていました。

ある日、この街に「灰色の男たち」が現われます。「時間貯蓄銀行」から来たという彼らの正体は、人々から時間を奪おうとする「時間どろぼう」。

時間どろぼうは、人々をだまし、時間を奪い、余裕のない生活に追い立てます。

モモは、盗まれた時間を取り戻すために、灰色の男たちと命をかけて戦います。

お金に関する物語

エンデの『モモ』は、多くの図書館では児童文学の書架に置かれています。

他方で、この物語は「お金」に関する暗喩であるとして、経済学者からも広く研究されています。
エンデ自身、『モモ』について「老化するお金」という概念が背景にあることを、認めています。

「成長を前提にし、成長を強制する性格をもつ現行の金融システムが、この競争社会を生みだしている根本原因だ」というエンデの言葉。「灰色の男たち」とは「競争社会の中での、不正な金融システムの恩恵に授かっている者たち」を指すことが、示されています。

ファンタジーで未来を見る

しかし、『モモ』は児童文学です。金融システムがどうのこうのなんて、大人の年齢の私でもわかりません。

『エンデの遺言』(NHK出版、2000年)の中で、エンデは次のように語ります。

『ファンタジーとは現実から逃避したり、おとぎの国で空想的な冒険をすることではありません。ファンタジーによって、私たちはまだ見えない、将来起こる物事を眼前に思い浮かべることができるのです』

ファンタジーは、ほかのジャンルと同様に、これまで人類が築き上げてきた言語、言葉をつむいで、現実にはあり得ない感じがする世界を描く物語です。

あり得ない感じはするけれど、時間軸を過去・現在・未来に分けた時に、未来において、ファンタジーで表現されたことが、現実の出来事として我々にふりかかる可能性はあります。

未来のことは、誰にもわからないのですから。

わからないからこそ。未来の手がかりのひとつとして、ファンタジーが存在しています。『モモ』は年齢を問わずに、読者に「未来を生きるヒント」を与えてくれる物語です。

エンデの問いかけ

エンデは読者に問いかけます。

『数人の人が同じ本を読んでいるとき、読まれているのは、本当に同じ本でしょうか?』

同じ本でも、読み手が変われば、その数だけの解釈があります。

これは、エンデが書いた『モモ』が、読者に読まれた瞬間に、その読者自身の物語となることを意味しています。

エンデ自身や経済学者が『モモ』の根底に金融システムの腐敗を語っていたとしても、読者が『そんなテーマは微塵も感じなかったよ』と思うなら、『そんなテーマは微塵も感じなかったよ』という、それこそが読書感想になります。

私が『モモ』の中でいちばん印象に残る場面は、モモが時間を支配するマイスターに問いかける

『あなたは死なの?』

というセリフです。「あなた」は「死」なのかどうか。

この質問に対する答えがイエスなのかノーなのかは、闇の中です。わかるのは、モモも読者も「死」を体験したことは無いということ。自分ではない誰かの死に触れたことはあっても、自分が死んだことはありません。知らないことを知りたい。

知りたいけれどわからない不思議。このふわっとした感じ。金融システムの腐敗なんてテーマがあることは、読後に解説を読むまで微塵も感じませんでした。

孤独だからこそ

私なりに解釈する『モモ』は、「時間」でも「お金」でもなく、「孤独」をテーマにした物語です。

モモは、「灰色の男たち」によって友だちを失い、孤独を感じます。

どんなに価値が高い財産を持っていても、それを分かち合える友だちがいなければ、その価値にはなんの意味もないことにモモは気がつきます。

振り返れば、ある日突然、どこからともなく、街の円形劇場に現われたモモは、物語の最初から孤独を背負っていました。

孤独の意味を心底、味わっているからこそ。モモは、心の奥の扉にかかったカギを開放し、友だちという存在の大切さを感じていたのでしょう。

周囲の人々は、モモに心を開きました。

人が人をひきつける要素はさまざまあります。モモの場合は、他者の追随を許さない深い孤独が、彼女を誰よりも魅力的な心の持ち主に昇華させました。

人は誰も孤独。

『モモ』という内なる精神性に問いかける物語は、確かに読む人によって解釈が異なるかもしれません。読者が自分の内面に語りかけることによって、誰もがモモや、モモよりもっと素敵な人物になれる可能性を持ち合わせていることが、示唆されています。