雑記とかドラマ【相棒】の魅力とか!

2022年はドラマ「相棒」関連の記事が中心です。

【相棒8第18話「右京、風邪をひく」感想】もし32歳の女性が孤独にまみれたら。

2018年1月に放送300回を迎えるドラマ【相棒】。その中でも「この回がいちばん好き」と人気があるのが、season8第18話「右京、風邪をひく」です。

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(この回はやたら神戸くんがかっこいい。画像引用・テレビ朝日、東映)

古沢良太脚本にハズレ無し

この回の脚本を担当しているのは古沢良太さん。ドラマ「リーガル・ハイ」、映画「ALWAYS三丁目の夕日」などの大ヒット作を手がけている、日本を代表する作家さんです。

【相棒】シリーズでは、亀山くんが右京さんと間違われて誘拐されてしまう「監禁」、右京さんが大学時代の恩師の恋愛模様をひもといていく「密愛」、夫を射殺しなければ娘を殺されると脅迫された女性を描くスリル満点のお正月スペシャル「バベルの塔」など変幻自在。

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今は「花の里」の女将さんとしてレギュラーに定着した月本幸子さんの生みの親も古沢さんです。

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これから【相棒】の過去作品を見てみようと思っている人には、とりあえず「脚本・古沢良太」の作品を選択すれば間違いなく面白い、と断言できます。

全シーンがパズルのピース

「右京、風邪をひく」から私が連想する古沢作品は【相棒】よりも、映画で大ヒットした「キサラギ」です。

1年前に死んだアイドルのファン5人が集まってオフ会をしているうちに、そのアイドルの死の真相をめぐって、一人ひとりの思惑が明るみになっていく話。

ストーリーがラストに近づくにつれて、序盤から中盤に散りばめられた伏線が見事に回収される「古沢マジック」が凄すぎます。ノベライズ本を買ってきて「このセリフは後半のこのセリフにつながるのか」と赤ペンで線を引いてみたら赤まみれになりました。

「右京、風邪をひく」も、見終わった瞬間に「相棒すげえ!」と叫び、ノベライズ本が出版されてすぐに赤ペンで線を引きまくりました。

この作品は、主に3月5日から7日の3日間にかけて起きた事が描かれています。ただし、時系列ではなく、構成がトリッキー。

伊丹刑事いわく「捜査とは…」

3月7日。死体が発見された日に殺人事件の犯人を捕まえた事で、伊丹刑事たちは意気揚々と警視庁の廊下を歩いてきます。

そこに反対側から来てすれ違う右京さんと神戸くん。

伊丹さんが「捜査なんてのは推理だとかなんとか、そんなもんじゃありません。まずは足。それから経験の積み重ねによる勘。そして何より、ここです」と胸を張ると「勉強になりますねえ」と感心する右京さん。

伊丹さんが通りすぎたところで、神戸くんが「しかし、時にはもうひとつ、運も必要な気がしますが」と切り返し、右京さんも「この場合は運というより縁と言ったほうが正確でしょう」と笑みを浮かべます。

ここから過去にさかのぼり、時系列ではなく、神戸くん視点と右京さん視点の3月5日、6日のストーリーが展開していきます。

犯人は冒頭で明かされる

伊丹さんの知らないところで、右京さんと神戸くんが少しずつ犯人を追い詰めていき、追い詰められていた犯人を、伊丹さんが足と経験と「ここ」で捕まえて解決したと思いこむ。ざっくりまとめると、そんな話です。

最初から最後まで、すべてのシーン、すべてのセリフが緻密に組み立てられています。物語は3月5日から7日の間を行ったりきたりして、途中で何が何やらわからなくなってくることもあるのですが、ちゃんと見ていると、ヒントが散りばめられています。

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(被害者老人の所持品の中に、裏返して油性ペンで点を2つ描いた軍手がみつかる。この軍手の意味を知ると、ゾワッときて感動する!画像引用・テレビ朝日、東映)

冒頭に犯人が被害者を殺害するシーンがあり、視聴者は犯人が誰だかわかっている形式でストーリーを追います。

正直、2010年3月3日の初回放送を見ただけでは、私はこの入り組んだ構成を半分も理解できていませんでした。再放送を1度、2度、3度と見ているうちに「あー、このセリフはここにつながっていたのか」とようやく気がつく鈍感さ。

この回は【相棒】ファンの間では絶賛されているのですが、みんなは1回の放送で全部理解できたのだろうか、【相棒】は視聴者のレベルも高いのかな、とビビっています。

孤独と戦い孤独におびえ

「老人と少女の交流が涙を誘う」この回の大きなテーマは「孤独」です。

犯人の1人である樫山ジュンという32歳の女性は、自分が孤独になることに、恐怖を抱いていました。ゆえに、女ったらしの男との恋愛にすがりついています。

ジュンは、殺された西島という老人について、右京さんたちにこんなセリフを吐きます。

「真実を暴くことにどんな意味があるんですか?西島さんは天涯孤独なんですよ。亡くなって誰が悲しむんですか?誰が怒るんですか?誰が困るんですか?誰とも繋がっていない人間なんですよ」と。

ここは百戦錬磨の右京さん。身勝手を通り越して哀れな主張をするジュンに、老人と少女の交流について、静かに説明します。

風邪で部屋から出られない少女。毎日ハローワークに通う西島老人。2人は、窓の中と外を通じて、お互いを励まし合いました。老人は孤独では無かったこと。

「誰とも繋がっていない人間など、この世にいるとお思いですか?時には本人さえ知らないどこかで、みな誰かを支え、誰かに支えられている。人間とはそういうものなのではないでしょうかねえ」

右京さんの静かな口調が、ジュンに罪をつぐなう覚悟を決めさせました。

同時に、そっと伊丹さんに手柄をゆずる神戸くんのさりげないやさしさ。これはもう、泣けるシーンのオンパレードです。

誰かを支え誰かに支えられ

人は誰もが孤独ではないのか、誰もが孤独なのか。孤独じゃない人と孤独な人がいるのか。

右京さんが神戸くんと会話する形でそれとなく伊丹さんに伝えた「運というより縁」の話。

縁は、人が孤独に陥らないための不可欠な要素です。

しかし「縁が無い」あるいは「運が無い」こともあります。

うまくいかないからこそ、人は葛藤します。孤独におびえます。

それでもやっぱり、人は誰かを支えていて、誰かに支えられている。

「右京、風邪をひく」は、笑って泣ける回であり、見るたびに何度でも自分を見つめ直す機会を与えてくれる、メッセージ性の強い話でもあるのです。