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【相棒14第8話「最終回の奇跡」感想】もし漫画家が「最終回なんて描くな」と言われたら。

この記事では、悲劇の漫画家の復活をめぐる殺人事件を描いた神回【相棒14第8話「最終回の奇跡」】の感想などを述べています。

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3年越しの《彼方の星》

箱崎咲良(はこざきさら)は漫画家です。子供の頃から漫画を描くのが好きでした。高校生の時に描いた《恋の宇宙船》を、姉のますみが勝手に応募したら新人賞をとりました。

咲良は上京して『月刊JUPITER』で《彼方の星》という漫画を連載するようになります。ほとんど家から出ずに描き続けて。漫画が売れている実感も、自分が有名になっている実感もないままに。

5年前。エンタテイメント会社社長の原田が現れ、咲良のファンだと言って、マネジメントや著作権の管理を契約しました。アシスタントを使わない咲良の体は限界を迎えていたので、原田の会社に交渉事をまかせて、漫画に集中できるようになりました。

3年前。咲良は神社の石段から落ちて大怪我をして、漫画家として再起不能と言われます。治療やリハビリにお金がかかる。でも仕事ができない。原田のビジネス展開のおかげで生活の不安を解消することができました。

しかし、原田は儲けることしか考えていませんでした。

再起不能と言われていた咲良が「最終回を描きたい」と申し出ると「悲劇の漫画家だから商品価値がある。復活したら意味がない」と原田につっぱねられました。

許せない。

原田はナイフで刺され死体となって発見されました。階段の途中に横たわり、傍らには花束と「それでも君を愛す」と書かれたカードが落ちていました。それは、《彼方の星》の最終回の1コマとそっくりの構図でした。

藤井清美脚本&池澤辰也監督の美しさ

「最終回の奇跡」のポイントは「神は細部に宿る」という言葉です。箱崎咲良いわく「紙の前に座ると、神様がこう描けと教えてくれる」。

《恋の宇宙船》にしても《彼方の星》にしても、細部までこだわりがある美しい作品です。

2つの作品は、ドラマの中の漫画家ではなく、プロの漫画家さんが描いたものなのだそうです。

「神は細部に宿る」。この言葉を使うのだから、この回の【相棒】じたいも細部までこだわってきます。

藤井清美さんの脚本と池澤辰也さんの監督が神っています。

作品全体が美しいのです。

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(画像引用・テレビ朝日、東映)

《彼方の星》や『月刊JUPITER』が実際にあるなら、漫画はほとんど読まない私でも、勢いで買ってしまいそうです。《彼方の星》のアニメ映画版のポスターや、陳列されているキャラクターグッズなど「こりゃあ売れるわな」と感心させられてしまいます。

何しろ《彼方の星》は世界累計で1400万部売れていて、1冊450円として印税だけで6億3000万円。さらに、アニメだけでなくゲーム化も…

刑事ドラマのお約束の先に

ストーリーを追っていくと、その深さ、緻密さに「相棒すげえ!」とうならされます。

原田を殺したのは誰か、という謎解きで話が前に転がっていきます。刑事ドラマの純粋な楽しみ方です。怪しい人物がちょこちょこと出てきて、伏線が張られます。

開始30分ごろには犯行を自供する者も。刑事ドラマ名物「21時30分で犯人が《私がやりました》というのは、誰かをかばっているから」です。

お約束を踏まえて容疑者がコロコロ入れ替わりつつ、漫画家・箱崎咲良の内面の葛藤が描かれていきます。

3年前の事故で再起不能と言われてからの日々。ようやくの復活。ところがそれは「殺人事件を奇跡的に予言した?」として話題になり。匿名掲示板では「漫画家としてはどうせすぐに失敗するに違いない」とののしられ。

自宅まで押しかけるマスコミ連中に「箱崎さん、今回の事件は予言されていたのでしょうか?」と意地の悪い質問を投げかけられた咲良は、目に力を宿して「あんな予言騒ぎがなくても、私の漫画はちゃんと評価されていたはずです」と応じました。

犯人は自分じゃない。姉でもない。

どんなに声を張り上げても、彼女には不安がにじんでいました。

犯人に感謝する漫画家

右京さんと冠城くんの捜査によって、ドラマは真犯人にたどりつきます。

犯人は3年前には神社の石段の上で咲良とぶつかり事故を起こして逃げ、3年後には咲良を守りたい一心で原田を殺害しました。

犯行過程を明るみにされ、右京さんに一喝されて崩れ折れる犯人。咲良に向かって何度も「すいませんでした!すいませんでした!」と謝ります。

咲良は犯人に言います。

「ただ、 私、感謝してるんです」と。

意外な展開です。

3年前の事故の時、咲良は「ここでは死ねない。まだ描きたいものがある」と思いました。それから3年後、改めて最終回を描く前に、もう一度あの神社に行ったこと。3年前とは、ほんの小さな、しかし自分にとっては重要な違いを見つけたこと。

「《神は細部に宿る》。あなたのおかげで、いい最終回が描けました。これからもっとすごいものを描きます。ありがとう」とお礼を述べました。

犯人にとっては、右京さんの一喝よりもショックが大きかったのでしょう。泣き出してしまいました。

【相棒14】の最高傑作!

心に宿る真実を描きたい漫画家。

メディア展開で儲けるために、悲劇の漫画家の復活を潰そうとする社長。

作品が売れてメディア展開が広がれば広がるほど、作品が自分の手から離れていく。芸術家が抱える葛藤がリアルにあぶり出されたのが「最終回の奇跡」です。

自分の原稿が盗まれ、その原稿を殺人に利用され、それでも犯人に感謝し、今後の糧とする。

箱崎咲良の強い意志は、【相棒】シリーズに登場したたくさんの芸術家たちの中でも屈指の部類に入るでしょう。

強い意志を持っているからこそ、彼女には神が降臨する。

自分にとっての神様とは、自分が創り出した自分の中だけにいる者、とこの漫画家は知っています。

神様は、彼女の意志の強さを知っているから、細部にだけ降臨する。

そこに、素敵な作品が生まれる。それが《彼方の星》。奇跡じゃない。必然なんだ。

犯人さがしをしながらエンタテイメント界の裏側が覗ける「最終回の奇跡」。箱崎咲良の《彼方の星》全編が読みたくてたまらない。そして、彼女の今後が気になって仕方がない。そんな余韻を楽しむことができる、【相棒14】の私の中での最高傑作です。

《2015年12月9日放送》

脚本=藤井清美、監督=池澤辰也