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【相棒8-11「願い」感想】もし時効成立後に犯人を知ったら。「ありふれた殺人」の解答編?

この記事ではドラマ【相棒】の歴史の中でも、犯人の豪快なトリックに驚き、その動機に涙が止まらなくなる傑作「願い」について記述しています。

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(画像引用・テレビ朝日、東映)

16年前の未解決失踪事件

【相棒season8第11話「願い」】は2010年1月13日に放送されました。脚本は太田愛さん、監督は安養寺工さんです。

《関連記事・太田さん脚本回》

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このシリーズから【相棒】に参加した太田さんの「season8」でのストーリー構成には、ざっくり分けて2つのパターンがありました。

ひとつは「season7最終回」から登場した2代目相棒・神戸尊のキャラクターを肉づけするパターン。

もうひとつは、犯人による豪快なトリックを右京さんがキレッキレの推理で解明するパターン。

「願い」は、ふたつめのパターンで、右京さんの推理力がフルに発揮されています。

事件の発端は2010年の16年前。1994年に起きた14歳の中学生失踪事件です。

その年の1月19日、14歳の田島遥は、友達に会うために家を出たまま、姿を消してしまいました。

遥の父はすでに亡くなり、母の美智子と、母の妹の鷹野涼子との3人暮らし。

捜査の結果、近くに住む今井康則という絵本作家の庭のゴミ箱から、遥のマフラーが発見されました。今井は重要参考人として警察に任意同行を求められます。

結局、今井は潔白が証明されたけれど、その間のマスコミ報道の影響で周囲から疑惑の目で見られるようになりました。仕事がなくなり、事件から1年半後に自殺。

遥の母親は、心労が重なったのか、事件の後にクモ膜下出血で死亡。

被害者や今井の家族らに悲しみだけを残した事件は、未解決。

遥はどこにいるのか。

願いは叶わなかった

失踪事件から16年後の2010年。遥を誘拐した犯人の片割れである、救いようのない悪人の乾は、鷹野涼子に、遥が誘拐された当日に殺されていた事実を伝えました。

遥の生存を信じていた人たちの「願い」は叶いませんでした。

殺したのは、もう1人の犯人で、16年前に遥の家庭教師をしていた香坂。

当時は殺人事件の時効が15年です。乾は、自分が警察に名乗り出るから、謝礼として1000万円を払えと、鷹野涼子に要求してきました。

確かに、乾が出頭すれば、香坂の犯罪を明るみにできるけれど。被害者家族なのに、犯人に要求されてお金を払わなければならない?

乾は、香坂にも金を要求していました。金を払わなければ、16年前のことをバラす。

ゆすられた香坂は、乾を殺さなければ自分は破滅すると追い詰められました。殺しました。

すると今度は乾の息子を名乗る人物が現れて、香坂を脅し始めました。金を得るために、16年前と同じ手口で、誘拐事件を引き起こす…

悲しみを乗り越えきれず

自覚のある悪人・乾。

自覚のない悪人・香坂。

2人に人生を狂わされてしまった被害者家族による復讐。

計画的な復讐にのせられて警察に逮捕された香坂。その供述によって、遥の遺体が発見されました。

右京さんは、事件の大がかりなトリックと真犯人を暴いた直後に、遥のお墓の前で犯人に静かに声をかけました。

「あなたがたがこうするしかなかったことが、とても残念です」と。

被害者として16年間、悲しみを乗り越えてきた人たちが、加害者になってしまいました。

亡くなった遥がこの事実を知ったとしたら、どう思うでしょうか。

自分を愛してくれた人たちが、自分を手にかけた奴らの罪を明らかにするために加害者となったことを。そうせざるを得なかったことを。

うれしさとやるせなさ。死人に口なし。

法で裁けない相手に右京さんは

右京さんの信条は「人は自分が犯した罪を法によって裁かれなければならない」です。一貫しています。

しかし、殺人事件の時効が成立してしまった以上、香坂が遥を殺害した件は、法律では裁けません。

太田愛脚本は、いろんな形で右京さんにジレンマをかけてきます。

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右京さんは、香坂を前にして怒りに震えます。

「たとえ時効になって罪に問えなくても、あなたが遥さんを手にかけたという事実は消えるものではありませんよ!時効ですべてが許されると思ったら、大間違いです!」

法の番人ではなく、人間愛に満ちた杉下右京が、そこにいました。

善良に生きよう、としても… 

真実は、時に残酷なまでに人を打ちのめします。誰も得しない、暴けば暴くほど悲しい結果。

なのだろうか。

自殺した絵本作家の今井康則の最後の作品は、遥が誘拐された場所にある桜の木でした。田島遥が失踪した時は冬枯れだったけれども、描いた桜は満開になっていました。自らを手にかける前に「願い」を絵に託しました。

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(画像引用・テレビ朝日、東映)

世の中に根っからの悪人がいる限り、どんなに善良に生きようとしていても、脅威に巻き込まれてしまうことがあります。

大切なものを次々に奪われてしまうかもしれない。

そんな時に、どこまで踏ん張れるか。

どうすればよかったのか

「復讐や報復は何も生まない」って、言うのは簡単だけれども、感情をコントロールするのは容易ではありません。

「あなたがたがこうするしかなかったことが、とても残念です」

じゃあ、どうすればよかったのか。

自分なら、ぐっとこらえられただろうか。

願いが叶わなかった時、判断を誤らない自信があるだろうか。

壮大なトリックの裏で起きていた葛藤の交錯こそ、この回の衝撃。

どうすればよかったのか。わかんねえ。じわります。

おっと。わからないで終わってはいけませんね。

もしも、願いが、叶うなら。願っても。未来のことは、わかりません。残酷だけれども。

残酷だけれども、願わずにはいられません。

願い続ければ花が開くこともあります。絵本作家が描いた桜のように。

思い出す【相棒3「ありふれた殺人」】

「願い」を再放送で何回か見てから【相棒season3第10話「ありふれた殺人」】を思い出しました。正確なタイトルは「ありふれた殺人〜時効成立後に真犯人自首?」です。脚本は櫻井武晴さん。2005年1月の放送です。

この話では、20年前に殺人事件を起こした犯人が、警察に出頭してきます。

「誰かに命を狙われている。俺を殺そうとしている」と。

被害者の両親は警視庁を訪れて「犯人の名前を教えてください」と何度も頼みますが、右京さんは「お教えできません」と静かにはねつけます。復讐殺人を防ぐために。

もし、被害者遺族が犯人を知ってしまったら。その解答編が「願い」と見ることもできます。

この記事を書いている2018年、殺人事件の時効が撤廃された今だからこそ、復讐という行為と真剣に向き合う必要があります。

殺人じゃなくても。他人を傷つけたり、傷つけられたりした時に、どうすればよいのか。わからなくない。じわりが、消えていく…

【相棒】すげえ!