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【相棒16第12話「暗数」感想】もし犯罪被害に遭っても立場が強い奴らにもみ消されたら。

「私を傷つけた人間は、平気な顔をして生きている」

「私は戦う。正義はあるって、信じたいから」…

この記事では、2018年1月17日に放送されたドラマ【相棒16「暗数」】の感想などを述べています。

勇気ある告発は潰された

 「暗数」とは「何らかの原因により、統計に現れなかった数字」のことです。警察などの公的機関が認知している犯罪の件数と、実際に起きている件数の差、としても使われる言葉です。

もみ消し。

この社会には、強い者が弱い者を傷つける行為をした時に、その行為を無かったことにする圧力が、いくらでもあります。

もみ消したほうの人間は、平気な顔をして生きています。

しかし、傷を負ったほうの人間は、その傷を抱えて生きていかなければなりません。

それでも立ち上がろうとした人がいます。

沖田真穂は24歳でした。会社の上司に乱暴されました。

彼女は、自分を傷つけた人間を告発しました。母には告発を反対されました。社長の息子に戦いを挑んでも、勝てる見込みはないし、自分が恥ずかしい思いをするだけなのだからと。

川崎東署の刑事は、執念で証拠を積み重ね、被疑者を有罪にできる確証を持ちました。

しかし、本庁からの指示により、捜査は中止の命令が出されました。もみ消し。

沖田真穂は、自分が受けた屈辱や仕打ちに耐えられなくなり、その命を消してしまいました。

【相棒】ならではの余韻とは

 「平等」という言葉があります。右京さんは、人間の命は平等であるという立場で「罪を犯した者は法で裁かれなければならない」信念を貫いています。

しかし、現状の社会は不平等だらけ。

この世に影が無くなる日を信じて、一つ一つの醜い影をあぶり出していく右京さん。

そこに今回が298話目で、次回から2週連続の300回スペシャルが放送される【相棒】の核心があります。

このドラマは、基本は時代劇やアンパンマンのような勧善懲悪物語として構成されています。ただし、扱うテーマが「人の心」に寄り添うものであるぶん「右京さんとその相棒が悪い奴をとっ捕まえた、良かった良かった」で終わらない、深い余韻があります。

今回の「暗数」の場合で言えば、誰かに傷をつけられた人が、その傷をこれからも背負って生きていかなければならない悲しさです。

一方で、誰かを傷つけた人間は、結局、法の裁きを受けずに平気で生きている…

沖田真穂を乱暴したどこかのボンボンは、自らの犯罪をもみ消してもらって、今もどこかで偉そうに人生を楽しんでいるのでしょう。

スッキリしないストーリーに、問いかけられます。「じゃあ、視聴した自分にできる事は何なのか?」と。

憎しみが共感された時

沖田真穂の母親・晃子は、葛藤を抱えていました。正義を信じて犯人を告発しようとする娘を、やめておけと止めてしまいました。娘は圧力に負けました。そして死を選びました。

自分はあの時、どうすれば良かったのか。これから、どうしたら良いのか。

ここが今回の分水嶺でした。

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晃子は、捜査に圧力をかけて中止にさせた人物が、衣笠という警察幹部であることを知りました。

衣笠の家を訪れた晃子は、衣笠の妻・祥子に宣告しました。

「娘は死にました。ご主人に殺されたと、私は思っています」

祥子は晃子を受け入れました。

自分も、晃子の娘と同じように、22歳の時に職場の上司に無理やり乱暴されました。

母親に相談すると「秘密にしておきなさい。事故に遭ったと思って忘れなさい」と諭されました。

恐怖。屈辱。みじめさ。

ずっと秘めてきた苦しさ。

沖田真穂の事件をもみ消した夫を、許せなくなりました。

そして、夫の書斎に脅迫状を置きました。

ん?

復讐という正義は無い

右京さんは祥子に「そこまでやる必要があったのでしょうか?」と問いました。

祥子は「罰しなければ夫を許せなかった」と言いました。

許せない。だから罰する。

それでは、報復です。復讐です。

強い者が弱い者を傷つけたからといって、弱い者が強い者を傷つけ返して良いという道理はありません。

沖田真穂は、どんなにつらい思いをしてでも、事実を明るみにしようとしました。

「私は戦う。正義はあるって信じたいから。私は声を上げる。一人で苦しまないでって、伝えたいから」

この想いの真摯さを、晃子と祥子は、少しだけ履き違えてしまったのかもしれません。

自分のほうが正義であると信じることは、人を安心させ、気持ちよくさせます。そこで思考が停止してしまうことがあります。

晃子は自分が娘を苦しめた過去の葛藤を、忘れてはいけなかった。祥子は、自分が苦しめられた過去を背負って、本当の正義の意味を考え抜かなければならなかった。

胸に響く 「一人で苦しまないで」

現代における「暗数」は、どれくらいの数字になるのでしょうか。それがわからないから「暗い数」として表記されているはずです。

もちろんその中には、強い者が弱い者を傷つけた犯罪では無いものも含まれているでしょう。

それでも、強者が弱者の心を押しつぶした案件は圧倒的な数になりそうです。

犯罪者を許さないのは当然として。

では、傷を負った人が、苦しみを抱えて生きていくには、どうしたら良いのでしょうか。

一つは、沖田真穂の死をムダにしないこと。彼女が遺した「一人で苦しまないで、って伝えたい」気持ちに、もし共感できるなら、声を上げること。あるいは、自分が誰かを苦しませないこと。

もう一つの答えのヒントが、衣笠と祥子の娘である里奈の、心の葛藤や揺れ動きにありそうな気がします。

心が揺れる「ビーフシチュー」

中学生の里奈は、父親に心を開いていませんでした。母親はストレス性のぜんそくとパニック障害で転地療養中。

里奈を世話してくれているのは、沖田晃子という家政婦です。

衣笠が何者かに襲われた事件について、里奈は警察官が晃子を疑い始めたことを知り、心を閉ざします。

信じる心が、揺れていく。

1年前、彼女は、家庭を顧みずに夜遅くに帰宅する父親に反発して、空き家で仲間とつるんでいました。

あの時、里奈の目から光が消えていました。

しかし、父が属する警察の中にも杉下さんと冠城さんという、思いやりにあふれる人がいることを知りました。

晃子さんを助けに行こうとして、逆に晃子さんに助けられ、さらなる窮地を杉下さんと冠城さんに救われて。

自分を大切にしてくれる人を大切に感じる気持ちに出会いました。

ビーフシチューを作って、父の帰りを待つことにしました。

おい親父、かわいい娘と仲直りするためには、戸惑っている場合じゃないぞ。娘のほうから歩み寄ってくれてるんだぞ。

娘の隣に、娘以上にこれまで自分を恨んできた女性がいても。

人は、やり直せます。強い人ほど、気がついてほしいな。

この社会には、数えきれないほどの暗数があることを。暗数の数よりもさらにたくさんの傷が存在することを。

そして、傷を抱えて生きている人にこそ、今回の【相棒】を忘れないでほしいと願います。

復讐よりも、ビーフシチュー。