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【相棒16第9話「目撃しない女」感想】もし自分が他人の顔を覚えられない劣等感にまみれていたら。

この記事では2017年12月13日に放送されたドラマ【相棒16-9目撃しない女】の感想を記述しています。

「あれ、なんかの病気だろ?」

 逮捕された犯人は、取調室で淡々と言い放ちました。

「あれ、なんかの病気だろ?」

このセリフに「こいつ許せねえ!」と、コブシを握りました。

「なんかの病気」と言われてしまったのは、今回の主役である新崎芽依という女性でした。

右京さんの見立てによると、彼女は「そうぼうしつにん」を発症しているようです。

相貌失認とは、顔を識別できず、誰の顔かわからないため、個人の特定ができない、脳障害の一つです。

今回のタイトルの「目撃しない女」とは、事件の犯人を目の前で目撃していながら、その顔を識別することができない芽依のことを指していました。

山本むつみ脚本は人情が魅力

 今回の脚本を担当したのは山本むつみさんでした。

山本さんはNHKで放送されたドラマ「八重の桜」や「ゲゲゲの女房」の脚本を書いた人です。

山本さんによる「相棒ワールド」の魅力は、派手なトリックよりも、その回の中心となる人物の内面を照らし出す人間ドラマにあります。人情がにじみ出てきます。

初参加となった「相棒12・見知らぬ共犯者」では、自殺した新人女優の父親の悲痛を中山仁さんが、「相棒15・出来心」ではインチキ占い師を風間杜夫さんが熱演しました。

山本さんの脚本と、その回の主人公の演技は、いつもバッチリはまります。

「目撃しない女」では、相貌失認の症状を持つ女性を演じた朝倉あきさんが、これ以上の配役は無いんじゃないかと思わされるほど、ハマり役でした。

「君は人の顔が見分けられない」

 芽依は、自作のタコライスをキッチンカーで移動販売していました。仕込みなどの拠点は、1年前にバイトしていたバーを借りていました。

バーのマスターが、ナイフで刺されて殺されました。

犯人を見てしまった芽依は、身の危険にさらされました。

芽依のキッチンカーは、人気のライブイベントに出店することが決まりました。

冠城くんは、芽依の出店を思いとどまらせようと、彼女に非情な宣告をします。

「君には、人の顔が見分けられない」

と。

芽依は反発します。

私は普通の人と変わらない。何も問題ない。料理もできるし、キッチンカーだって運転できる。

芽依は強情に突っぱねて、ライブイベントにキッチンカーを出店しました。

実家に住んでいた頃。店番で失敗ばかりしていたこと。顔を覚えられないから、学校で生意気だと思われて、クラスで無視の対象となってしまったこと。

物覚えが悪い、気がきかないと責める両親との関係がこじれて、東京に出てきたこと。

誰にも知られたくない、触れられたくない秘密。

かぶらぎさん…が守ってくれて、初めて気づけた、人のやさしさ。

両方とも傷つくパターン

 人は、弱みや負い目を抱えて生きています。

他人に知られたくない悩みの種類はさまざまです。

もし自分が、物心ついた時から、人の顔を見分けられなかったら。

ドラマの冒頭、冠城くんが、芽依目当てで毎週水曜日に、タコライスを買いに行きます。

しかし、芽依は冠城くんのことを覚えていません。

芽依に覚えられていなかった冠城くんが、ショックを受けます。

最初はコミカルな1シーンとして流していたのだけれど、振り返ると、あの時も、芽依は内心でショックを感じていたのかもしれません。

常連さんの顔を覚えていない自分に。

芽依が学校で無視されてしまった理由。

もし私が自分が芽依のクラスメイトで、芽依に心を開こうとしても、あいさつが無かったり、生意気に見えたら、関わらないようにすると思います。

関わらない側は、無視していればそれで済む問題だけれど、芽依はジレンマを抱えています。

自分が相貌失認という脳機能障害を抱えていることを、知らないのだから。

なぜ自分は物覚えが悪いのか、なぜ自分は気がきかないのか。

劣等感のかたまりとなり、人に会うのが怖くなってしまう…

「相棒」は頑張る若者を応援してくれる

 今回の話を見ていて、私は「相棒15」で放送された「嘘吐き」を思い出しました。

「嘘吐き」の主人公は、売れないマンガ家の夏音という女性でした。

夏音は、安くてボロいアパートに住みながら、いつか自分のマンガが売れることを夢見てコツコツとマンガを描いていました。

彼女には虚言癖がありました。誰にも信じてもらえなくなった経験は、自分を臆病に追いつめるものです。

新しい人生を歩むと決めても、1人で強く生きていこうと強く思うほどに、弱さに絡めとられてしまいます。

しかし「相棒」は、夢を信じて頑張る若者を見捨てません。

夏音が犯人に襲われた時は、右京さんが猛ダッシュで駆けつけてくれました。

右京さんと冠城くんは、夏音が嘘をついていないと信じてくれました。

今回の「目撃しない女」では、冠城くんが芽依を助けました。

芽依を助けた冠城くんは、犯人の1人にナイフで刺されてしまいました。

冠城くんがナイフで刺された

 山本さんが「相棒15」で担当した作品に「アンタッチャブル」があります。

この回は、警視庁の衣笠副総監とサイバーセキュリティ対策課の青木が、特命係を潰すために動き出す話が、クローズアップされました。

本筋は、殺人事件を目撃した中学生の里奈が、右京さんと冠城くんの手引きによって、徐々に犯人像を思い出していくというストーリーです。

犯人の心当たりを見つけた里奈は、右京さんたちの忠告を振り切って、ひとりで怪しい場所に潜入します。

犯人に襲われる寸前に助けられた里奈を、右京さんは一言だけ、叱りつけました。

「間に合ったからいいようなものの、こんな無茶をして、何かあったらどうするんですか!」

里奈の消え入るような「ごめんなさい」が忘れられないシーンとなりました。

しかし今回は、何かが起きてしまいました。

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右京さんが冠城くんと芽依を発見したのは、冠城くんが刺された直後でした。

右京さんのセリフは

「何をしているんですか!」でした。

右京さんは犯人を投げ飛ばすカッコよさを見せてくれましたが、何か、が起きてしまった後でした。

秘密を知られた時、どうする?

ナイフで刺されてまで自分を守ってくれた冠城くんを、芽依はお見舞いに訪れました。

芽依は、自分が抱えていた劣等感を、冠城くんに打ち明けました。

彼女はようやく、心を開くことができました。

しかし、芽依はこれからも、相貌失認と向き合っていかなければなりません。

犯人が取調室で言い放ったセリフ。

「あれ、なんかの病気だろ?」

自分より弱い人間を、ある人はさげすみ、ある人は利用しようとたくらみます。

そんな現実を知っているから、弱みを抱える人は、その劣等感をひたすら隠そうとします。

葛藤に直面した時に、ポジティブになるのは、難しいものです。

自分は普通じゃない。

相貌失認は、パッと見では、他人にはわかりません。

芽依の場合は、美味しいタコライスを笑顔で提供してくれる人として、たくさんの人に受け止められています。

パッと見ではわからないからこそ、彼女と深く接して「何かがおかしい」と感じた人たちが、自分のいないどこかでコソコソとウワサをしているのではないか、と気になります。

他人には絶対に知られたくない秘密があるけれど、その秘密を誰かに知られてしまった時、あるいは知られたと自分が感じた時に、自分が、どうするか。

「目撃しない女」は、冠城くんのやさしさに出会ったことで、自分の心を「目撃する女」になることを決意しました。

その時、見えたものが、ラストシーンで表現されていたのではないでしょうか。

 

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